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2017年5月

一度はリタイアも考えた姉妹デュオ、THE SECRET SISTERSが再起を賭け、新作をリリース

Thesecretsisters

 
ニッキー・レーンシャヴェルズ&ロープを擁するニュー・ウェスト・レコードがこの5月と6月、気になるアルバムを立て続けにリリースする。
 
ダニエル・ロマノの『Modern Pressure』(5月19日)を皮切りにジャスティン・タウンズ・アールの『Kids In The Street』(5月26日)、シークレット・シスターズの『You Don’t Own Me Anymore』(6月9日)、サミー・ブルーの『I Am Nice』(6月16日)、そしてデスロンズの『Hurry Home』(6月23日)と、ほぼ毎週、リリースされるラインナップはアメリカーナのファンなら、どれも押さえておきたいものばかりだが、中でも一番、楽しみなのがシークレット・シスターズによる3年ぶりのリリースとなる『You Don’t Own Me Anymore』だ。
 
なぜ、そんなに楽しみなのかと言えば、この3年間、思うように音楽活動ができなかった彼女達が再起を賭け、クラウドファンディングで完成させたアルバムだからだ。
 
ローラとリディア――。アラバマ州マッスル・ショールズ出身のロジャーズ姉妹からなるシークレット・シスターズは、T・ボーン・バーネットの秘蔵っ子としてデビュー。その後、バーネットがプロデュースした2枚のアルバム――カヴァー曲中心でトラディショナルな作風だった10年の『The Secret Sisters』、オルタナ・カントリーに転じた14年の『Put Your Needle Down』ともに歓迎され、ボブ・ディラン、ジャック・ホワイトと共演したことも話題になった。
 
 
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The Secret Sisters (Universal Republic)
 
 
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Put Your Needle Down (Republic)
 
 
そんな彼女達の未来は明るいものに思えた。しかし、彼女達を待っていたのは、自分達がクビにしたマネージャーから逆に訴えられ、レーベルからも契約を打ち切られてしまうというトラブルの連続だった。家賃を払うためにハウスクリーニングのアルバイトもしたという。音楽をやめて、9時5時の仕事に就いたら安定した生活を送ることができるのに、と考えこともあったという。
 
しかし、2人は絶対あきらめないと励ましあいながら、再び曲を書き始めた。
 
そんな2人に協力を申し出たのが、2人が敬愛しているシンガー・ソングライター、ブランディ・カーライルだった。2人が書いた新曲を聴き、彼女は新作をプロデュースすることを快諾。カーライルが『Bear Creek』と『The Firewatcher’s Daughter』という2枚のアルバムをレコーディングしたシアトル郊外にあるお気に入りのスタジオ、ベアー・クリークでレコーディングが実現した。
 
4月27日に公開された『You Don’t Own Me Anymore』からの「He’s Fine」のMVを見たとき、ローラとリディアの力強いハーモニーに胸を打たれた。
 
 
 
それに加え、アルバムのレコーディングの、ちょっとしたドキュメンタリーにもなっている、そのMVからは限られた人数の親密な環境で、ローラとリディアが希望を胸にのびのびと歌っている様子や強靭な意志の下、2人をバックアップするカーライルの確信も伝わってきた。きっと『You Don’t Own Me Anymore』は素晴らしい作品になっている違いない。前の2枚のアルバムがウェルメイドすぎたんじゃないかと思えるぐらい生々しい作品になっていたらおもしろい。
 
誰に対するステートメントなのか考えると興味深い『You Don’t Own Me Anymore』というタイトルからも新作に込めた姉妹の想いの強さが感じられる。
 
 
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You Don't Own Me Anymore (New West)

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思いの外、聴きどころが多いCOCO HAMES(ex.THE ETTES)のソロ・デビュー・アルバム

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今年3月にマージ・レコードからリリースしたココ・ヘイムズのソロ・アルバム。タイトルはシンプルに『Coco Hames』。それが予想していた以上に良かった。正直、彼女が以前、やっていたバンド、THE ETTESのアルバムよりも聴き応えがある。
 
04年にジェム(B)、ポニ(Dr)とともにロサンゼルスでココ(Vo, G)が始めたTHE ETTESは、06年に『Shake the Dust』でシンパシー・フォー・ザ・レコーズからデビュー。その後、活動拠点をナッシュビルに移して、4枚のアルバムに加え、多くのEP、シングルをリリースしてきた。
 
 
Theettes_2THE ETTES
 
 
その『Shake the Dust』はリアム・ワトソン(ホワイト・ストライプス他)によるロンドン・レコーディングだったが、THE ETTESはワトソンのみならず、ブラック・キーズのダン・オーバックやオブリヴィアンズ/レイニング・サウンドのグレッグ・カートライトともレコーディングを経験していることから、いわゆるガレージ・ロック・リヴァウイヴァル・シーンの先輩達に、ずいぶんとかわいがられたバンドだったという印象がある。
 
そう言えば、ココはグレッグ・カートライトとパーティング・ギフツというユニットを組んで、10年にシンパシー・フォー・ザ・レコード・インダストリーと並ぶガレージ・リヴァイヴァルの名門レーベル、イン・ザ・レッドから『Strychnine Dandelion』というアルバムもリリースしたことがある。
 
 
Partinggifts THE PARTING GIFTS
 
 
『Coco Hames』はTHE ETTESの活動休止後、ココが初めてリリースする作品だ。アラバマ・シェイクス、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ、ベンジャミン・ブッカー他を手掛けたアンドリジャ・トキックのプロデュースの下、ナッシュビルでレコーディングした全10曲が収録されている。
 
THE ETTESでやっていたガレージ・ロック路線を受け継ぎつつ、彼女が聴きながら育ったというクラシック・カントリーや60年代のガール・ポップの影響も滲ませながら、表現の幅を広げているんだから、聴き応えがあるのは当然と言えば、当然だろう。
 
 
 
 
もちろん、アルバムの一番の聴きどころは、ガレージ・ロックに止まらないバックグラウンドが反映された曲の数々には違いない。しかし、その曲の数々を演奏しているミュージシャン達によるツボを押さえた手堅い演奏もまた、聴きどころだ。
 
ギターのみならず、自らハープシコードやオムニコードも演奏したココをバックアップするミュージシャン達の顔ぶれは以下の通り――。
 
グリーンホーンズ/ラカンターズのベーシスト、ジャック・ローレンス。ロズウェル・キッド他のギタリストで、ナッシュビルで今最もホットなギタリストと注目されているアダム・マスターハンス。ホイッグス/イーグル・オブ・デス・メタルのドラマー、ジュリアン・ドリオ。レイニング・サウンドや数々のセッションで活躍しているオルガン奏者、デイヴ・アメルズ。ジャック・ホワイトのプロデュースによるソロ・アルバムをリリースしたシンガー・ソングライター、リリー・メイ・リーシュ。そしてディア・ティックのフロントマン、ジョン・マッコーリーら、まさにナッシュビルのインディー・シーンの精鋭と言えるミュージシャン達がレコーディングに参加している。
 
中でも、「Tiny Pieces」というトミー・スティンソンのバッシュ&ポップ時代の曲を、ココとデュエットして、強烈な印象を残したジョン・マッコーリーのガッツあふれるシャウトは、アルバムの大きな聴きどころだ。ココの歌声がやや甘すぎるきらいがあることを考えると、ジョンの歌声がある意味、濁りを加えたこの1曲があるのとないのとでは、アルバムの印象はずいぶん違っていたと思う。
 
 
 
 
THE ETTESがナッシュビルでやっているフォンド・オブジェクトというレコードおよびアンティーク・ショップで開催したインストア・ライヴならぬバックヤード・ライヴにトミー・スティンソンを招いた時から、ココは「Tiny Pieces」をいい曲だと思っていたという。ジョンはリプレイスメンツの大ファンだ。「Tiny Pieces」を提案され、即OKしたんじゃないか。
 
久しぶりにジョンの歌声を聴き、ぐっと来た。そんなチャンスを作ってくれたココに感謝したい。
 
 
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Coco Hames (Merge)

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