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2016年5月

ルーツ・ポップの新星、KYLE CRAFTが蘇らせるグラム・ロックの神髄

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ラグタイム風のピアノに胸が躍る「Eye Of A Hurricane」で始まるカイル・クラフトのデビュー・アルバム『Dolls Of Highland』。
 
そこそこグラマラスなルックスもさることながら、70年代のグラム・ロックを、その根っこにあるブルースやR&Bの影響とともに現代に蘇らせたポップなロックンロールの数々がクラフトの存在を際立たせている。上っ面をただなぞっただけではない。
 
曲作りの最大のインスピレーションになったというデヴィッド・ボウイを相当、聴きこんだにちがいない。デヴィッド・ボウイやT-レックス、あるいはモット・ザ・フープルの音楽を聴いたとき、華やかな見た目とは裏腹に感じる「意外に泥臭い」という戸惑いを殊更に強調していると言ったら、たぶんクラフト本人の狙いとは違うのかもしれないけど、そんなところも『Dolls Of Highland』の聴きどころ。ボウイと並ぶインスピレーションというボブ・ディランはボウイから遡った?
 
 
 
 
ルイジアナ州シュリーヴポート出身の27歳。フットボールやギターを弾くかわりにワニやガラガラヘビを獲っていた――とレーベルが作ったバイオグラフィーでは、おもしろおかしく誇張されているが、ロック・バンドなんてやって来ない田舎町の、毎週日曜日、教会に通う家庭に生まれ育ったクラフトは15歳になるまで、いわゆるポピュラー・ミュージックに興味を持つことはなかったそうだ。
 
そんな人生が一変したきっかけが友人からギターをもらい、Kマートで買ったデヴィッド・ボウイのヒット・コンピレーションを買ったことだった。ボウイの曲を聴いたクラフトは早速、オリジナル曲を作りはじめた。
 
その後、音楽活動ができる環境を求めて、ニューオーリンズ、テキサス州オースチンと渡り歩き、最終的にオレゴン州ポートランドに辿りついたクラフトが一旦、シュリーヴポートに戻り、友人の家のランドリールームでレコーディングしたのが『Dolls Of Highland』。トランペットなど、一部の楽器を除いて、全曲、クラフトひとりで全ての楽器を演奏している。
 
デモをきっかけに6年前から連絡を取っていたというサブ・ポップ・レコードにできあがったアルバムを聴いてもらったところ、若干のブラッシュアップを経て、リリースされることになった。
 
すでに米英のメディアはボウイ、ディランに加え、コックニー・レベル、スウェード、ドクター・ジョンらの名前を挙げながら、遅咲きの新人に注目しているが、こんな才能が27歳まで世に埋もれていたなんてちょっと驚きだ。
 
どこかノスタルジックなポップ・センスを閃かせる曲の魅力はもちろん、全曲、全力の熱唱というところが個人的には気に入っている。
 
 
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Dolls Of Highland (Sub Pop)

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THE STRANGE BOYSの元フロントマン、Ryan Sambolがソロ活動を開始

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アルバムは3枚全て持っているし、ライヴも一度見たことがある。決して嫌いなタイプのバンドではない。しかし、タイミングなのか、俺がボンクラなのか、何なのか、テキサス州オースティンのガレージ・ロック・バンド、ストレンジ・ボーイズには正直、それほど夢中になることはなかった。
 
だから、バンドのフロントマンだったライアン・サンボルが15年7月にリリースしたソロ・アルバム『Now Ritual』を聴きつづけながらちょっと戸惑っている。ストレンジ・ボーイズってそんなによかったかしら?
 
 
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Now Ritual / Ryan Sambol (FWP / Punctum)
 
 
12年7月のライヴを最後にストレンジ・ボーイズの活動に終止符を打ったライアンはサンフランシスコに移住。そこで、早速、グレッグ・アシュリー、ミカル・クローニンら、シスコのガレージ/サイケ・シーンのミュージシャン達とレコーディングを行った。それが『Now Ritual』。レコーディングからリリースされるまでに3年かかっているわけだけれど、プライベートすぎるという理由からライアンは当初、リリースするつもりはなかったらしい。
 
その『Now Ritual』がリリースされることになったきっかけは、14年の夏、当時すでにオースティンに戻っていたライアンがオースティンでパンクタムというインディー・レーエルを運営しながら、ステューディアムというアート・スペースで総監督を務めているダン・ラッドマンに『Now Ritual』を含む未発表のソロ音源を聴かせたことだった。
 
「この1年、音楽から離れていたけど、また始めようと思っているんだ」
 
ステューディアムの設立にかかわったライアンはラッドマンから近況を尋ねられ、そう答えたそうだ。『Now Ritual』を聴いたとき、「これはリリースされるべきだ」と思ったラッドマンは、「それならなおさら」と『Now Ritual』のリリースをライアンに勧めたそうだ。
 
因みにストレンジ・ボーイズにそんなにハマらなかった筆者が『Now Ritual』を購入した理由は、完全にジャケ買い。とあるサイトで『Now Ritual』のアートワークを見た瞬間、何かビビッと感じるものがあった。その直感は大当たりだった。
 
敢えてカテゴライズするなら、ブルース/R&B/フォークということになるだろうか。ただし、頭にアシッドあるいはフリークという言葉をつけたほうがフリーキーな演奏にはしっくり来る。むわっとするような熱が感じられるところはいかにも南部のミュージシャンならではだが、その一方ではヨーロッパ趣味と言うか、クラシックの影響が感じられるところもある。
 
しかし、そんなカテゴライズは実はどうでもいい。『Now Ritual』の一番の聴きどころは、酔っぱらいが歌っているような、呻いているような、唸っているようなライアンのヴォーカルだ。
 
歪みがきついギターやドラムを、演奏に加えた曲もあるが、ほぼピアノあるいはギターの弾き語り。ライアンが「プライベートすぎる」と言ったそのシンプル極まりない演奏がクセのあるヴォーカルの魅力を際立たせている。ダメな人は絶対、ダメかもしれない。逆に一度ハマると、病みつきなるキョーレツな魅力がある。
 
それで入手以来、聴きつづけてきたわけだけれど、そのうちもっともっと聴いてみたいと思うようになり、『Now Ritual』と同時リリースされたリヴィング・グレイトフルの『Peace Mob』も慌ててオーダーした。
 
リヴィング・グレイトフルはサンフランシスコからオースティンに戻ってきたライアンが13年にストレンジ・ボーイズのギタリストだったグレッグ・エンロウら、オースティンのミュージシャン達と結成した5人組のバンドだ。エンジニアにマット・ヴェルタ・レイを迎え、『Peace Mob』をレコーディングしながら、メンバーそれぞれに進みたい道が違ったのか、数回、ライヴをやっただけで解散してしまった。
 
 
 
 
その『Peace Mob』は元々、ストレンジ・ボーイズの古巣レーベル、イン・ザ・レッドからリリースされる予定だったが、ずっとリリースが延期されたままだったので、『Now Ritual』をリリースするなら一緒にとライアンが権利を買い取り、遂に日の目を見ることになった。
 
 
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Peace Mob / Living Grateful (FWP / Punctum)
 
 
『Now Ritual』同様、リリースされてよかった。バンド名はグレイトフル・デッドのもじりみたいだが、サウンドはザ・バンドやローリング・ストーンズを思わせるロックンロールだ。ストレージ・ボーイズに通じるところもあるが、エネルギッシュであると同時に、よりルースなところが魅力。ライアンのクセのあるヴォーカルもバンドの演奏に見事ハマっている。『Peace Mob』一枚しか聴けないのかと思うと、ちょっと残念だが、2枚の未発表アルバムのリリースをきっかけに本格的にソロ活動を開始したライアンの今後に期待したい。
 
――と思っていたら、4月14日に突然、新曲「April March」のビデオを発表した。
 
 
 
 
とぼけた味わいもあるガレージ/サイケなこのインスト・ナンバーが、ライアンがすでに取り掛かっているという新しいアルバム『Rail Sing』からの曲なのか何の情報もないためわからないのだが、何らかのアクションの前触れと考え、今からわくわくわしている。

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RICHMOND FONTAINEが飾った有終の美

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結成から22年、ソウル・アサイラムの影響が色濃いオルタナ・カントリー・バンドから音響系のカントリー・ロック・バンドに進化を遂げていったオレゴン州ポートランドの4人組、リッチモンド・フォンテーンが今年3月、前作から5年ぶりにリリースした10作目のアルバム『You Can’t Go Back If There’s Nothing To Go Back To』とリリース後のツアー(3月30日~7月21日?)を最後に解散することを発表した。
 
 
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You Can’t Go Back If There’s Nothing To Go Back To (Fluff & Greavy)
 
 
結成メンバーでベーシストのデイヴ・ハーディングが11年に家族とともにデンマークに移住したことに加え、フロントマンであるウィリー・ヴローティン(Vo, G)が小説家として成功しはじめたことをきっかけにメンバーそれぞれに将来のことを考えたとき、まさに有終の美を飾るにふさわしいアルバムを作ることができたことが解散を決める理由になったようだ。
 
テキサス州オースティンのバンド、ダムネイションズTXのデボラ・ケリーをゲストに迎え、インストも含む全17曲で狂気の愛の物語を描きながら、久しぶりにハード&ヘヴィな一面も見せたロック・オペラ路線の前作『The High Country』(11年)が、バンドが究めたピークを見事にとらえた作品だったことを考えると、そこで終わってもよかったかもしれない。
 
実際、ウィリーは『The High Country』のツアーが終わって、デイヴがデンマークに行ってしまうと、デラインズなる新たなプロジェクトをスタートしている。それは自分達の人生の変化とともに訪れようとしているリッチモンド・フォンテーンの終わりを意識していたからだろう。
 
しかし、デラインズの活動が一区切りついたとき、ウィリーはリッチモンド・フォンテーンとして、どうしてももう1枚、アルバムを作りたくなった。『The High Country』 みたいな気が触れたようなアルバムで終わりにしたくなかったからだそうだ。
 
インスト2曲を含む13曲からなる『You Can’t Go Back If There’s Nothing To Go Back To』は、とてもリッチモンド・フォンテーンらしい作品だ。虚無感が感じられるタイトルは3曲目に収録されている「I Got Off The Bus」の歌詞の一節だが、その「I Got Off The Bus」をはじめ、人生や生活が破綻した人々の物語を巧みに切り取ったストーリーテリング、架空の映画のサントラを思わせるシネマティックなサウンドは、ともに彼らの真骨頂。そこに派手な魅力は何一つない。しかし、逆にそこが味わい深い。人生に行き詰っているにもかかわらず、焦燥感に駆られながら、どうしようもできずにいる人々の姿を、敢えて抑揚を抑え、淡々と描写するウィリーのビターな歌声が胸に染みる。
 
 
 
 
茫漠たる荒野を、強烈な寂寥感とともに連想させながら、実は躍動感にあふれ、曲の味わい深さを際立たせる演奏からもバンドの成熟が感じられる。『The High Country』もいいアルバムだったが、リッチモンド・フォンテーンらしいと言うなら、やはり『You Can’t Go Back If There’s Nothing To Go Back To』だろう。
 
ひょっとしたら、これまでリリースしてきたアルバムの中で一番いいかもしれない。最後の最後にバンドの最高傑作を更新したことには大きな意味がある。因みに『You Can’t Go Back If There’s Nothing To Go Back To』はUKアルバム・チャートの65位、UKカントリー・チャートの1位というリッチモンド・フォンテーン史上最高のチャート・アクションも記録している。
 
レコーディングでベースを演奏したのは、デラインズのベーシスト、フレディ・トルヒヨだが、ポートランドで行われたレコーディングにはデイヴもデンマークから駆けつけ、アコースティック・ギターで参加した。最後にこれだけの力作を残せたんだから、メンバー達も満足だろう。約20年、彼らの音楽を聴きつづけてきた僕も満足だ。
 
ひょっとしたらルセロに出会う前のNo.1フェイバリット・バンドかもしれない。ポートランドまでリッチモンド・フォンテーンのライヴを見に行き、ライヴの後、ウィリーにストリップとビールをおごってもらったことは、いい思い出だ。
 
小説家としてのデビュー作だった『The Motel Life』に続いて、『Lean On Pete』がイギリス人のアンドリュー・ヘイ(『ウィークエンド』『さざなみ』)によって映画化されるそうだから、ウィリーは今後、小説家としてますます注目されるにちがいないが、もちろんミュージシャンをやめるわけではない。ひきつづきデラインズを続けるそうだ(因みにエミール・ハーシュ、スティーヴン・ドーフ、ダコタ・ファニング、クリス・クリストファーソンが出演した映画『The Motel Life』の邦題は『ランナウェイ・ブルース』)。
 
 
 
デラインズのメンバーはダムネイションズTXのエイミー・ブーン(Vo)、リッチモンド・フォンテーンのドラマー、ショーン・オールダム、ディセンバリスツのジェニー・コンリー(Key)と彼らの友人達。
 
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The Delines
 
そもそもは妊娠したデボラ・ケリーの代わりに『The High Country』のツアーに参加したデボラの姉、エイミーをヴォーカリストに迎え、バンドを組んでみたいというウィリーの願いが実現したプロジェクトだった。
 
カントリーとソウル・ミュージックが一つに溶け合った美しいデビュー・アルバム『Colfax』をリリースしたデラインズは、リッチモンド・フォンテーン同様、イギリスおよびヨーロッパで歓迎され、その後のツアーも成功を収めている。
 
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Colfax (Decor)
 
これまで自分が歌うために曲を作ってきたウィリーにとって、自分が理想と考えるシンガーに曲を作ることが、彼の創作意欲を刺激したことは想像に難くない。これからは『Colafax』ですでにアピールしてみせたように単にリッチモンド・フォンテーンの延長上に止まらない活動が期待できそうだ。

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