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ウィル・シェフ(オッカーヴィル・リヴァー) インタビュー

ロック界の生きる伝説が作り上げた傑作
その舞台裏に迫るインタビュー

Rokywithokkervil

ロッキーの右隣がウィル

またライヴ活動を再開してはいたものの、まさかロッキー・エリクソンの――怪しげなライヴ盤やコンプレーションではなく、正真正銘の新作を、まさかこの21世紀に聴けるとは思ってもいなかった。

バットホール・サーファーズのドラマー、キング・コフィJr.の協力の下、チャーリー・セクストン、スピーディ・スパークス、ポール・レアリーら、地元テキサス州オースティンのミュージシャン達と完成させ、コフィJr.のレーベルからリリースした『All That May Do My Rhyme』から実に15年。『トゥルー・ラヴ・キャスト・アウト・オール・イーヴィル』と題されたその新作は、サイケデリック・ロックの創始者と謳われた13thフロア・エレヴェーターズ時代を含め、40年を超えるロッキーのキャリア史上、最高傑作と言える充実作だ。

エレヴェーターズの解散後、医療刑務所暮らしを経て70年代の半ばからソロ活動を続けながら、ドラッグ濫用と収監中のショック療法に起因する精神の問題を、90年代に"再発見"されたときでさえ抱え、まともに作品を作ることができなかった天才は、ついにその類稀なる才能を作品として形にすることに成功した。

無垢な魂が宿っているという意味で、それは最も美しい音楽の一つである。

レコーディングでは08年以来、ロッキーと度々共演してきた同郷の人気インディ・ロック・バンド、オッカーヴィル・リヴァーが演奏を担当した。轟音ギターが唸るサイケデリック・ロックから祈りにも似たゴスペルまで、多彩なアレンジとともに彼方と此方の境界線を怪しい足取りで歩きながら美しいメロディーを紡いできた音楽家の才能を深遠な世界観とともに浮かび上がらせたサポートが素晴らしい。

そう言えば、今年3月、SXSWで観ることができたロッキーとオッカーヴィル・リヴァーの共演ライヴでも自分で作った曲にもかかわらず、歌詞や歌いはじめるきっかけが覚束ないロッキーを献身的に支えるオッカーヴィル・リヴァーのリーダー、ウィル・シェフの姿がとても印象的だった。

選曲も含め、アルバムのプロデュースとアレンジも担当したウィルに話を聞くことができた。

あまりにもナイーヴな64歳の"大きな子供"をサポートしたウィルと彼のバンドの功績はあまりにも大きい。

Wsxsw

2010年のSXSW

●ロッキーとアルバムを作ったことは、あなたにとってどんな経験でしたか?

「長い道のりだったね(笑)。プロジェクトはロッキーのマネージメントが送ってきたCD3枚から選曲するところから始まったんだ。そこには彼が過去30年間、書き溜めてきた60曲以上の未発表曲が収録されていた。それらの曲が今日までリリースされなかった理由は単に音質の問題だった。精神を病んだシンガーがマネージャーもレーベルもスタジオもなしに書いた曲は信じられないぐらい素晴らしかったよ。僕が『"シンク・オブ・アズ・ワン"をやりたい』とロッキーに話したとき、ロッキーは『その曲をどこで聴いたんだい?』と尋ねてきた。彼はその曲の存在をすっかり忘れているようだった。その曲を含め、収録曲の何曲かは、13th フロア・エレヴェーターズ時代に書かれたものだと僕は信じている。ロッキーはそういう古い曲を覚えなおさなきゃいけなかった。でも、中には何十年も歌ったことがなかったにもかかわらず、たちまち思い出した曲もあったよ。彼とアルバムを作ることは、大昔の美しい宝を見つけようとするみたいだったと言うか、その宝を作った職人の後を追いかけて、彼が宝箱からそれを取り出して、かつての輝きを取り戻そうと磨きを掛ける姿を間近で見ているようだったね」

●レコーディングで大変だったことは?

「彼の個性の強さだね(笑)。彼は常に本能の赴くまま行動するんだ。即興や直感を信じているんだよ。実際、そういうやり方が彼の場合、かなりの確率で成功する。彼は唯一無二の存在だ。つまり、普通のプロデュース方法やコミュニケーションの取り方はロッキーには通用しないってことだ。だから、僕はまずロッキーの流儀を学んで、自分自身をその流儀に慣れさせなきゃいけなかったんだ」

●逆に楽しかったことと言うと?

「それはやっぱり、アメリカを代表する第一級のシンガーと、彼がこれまで書いてきたベストと言える曲をレコーディングしているという事実だよ。しかも、自分の仕事をしっかりとやり遂げることができたら、これまで存在していなかったとても素晴らしい芸術作品の制作に関れるんだからね。プロデューサーとして、それ以上のことを頼まれるなんてことがあるかい?」

●あなたのプロデュースやアレンジについて、レコーディングしている間、ロッキーは何と言っていましたか?

「いい方向に進んでいると信じているよと言ってくれた。もちろん、決断の大小にかかわらず、僕は常にロッキーに意見を求めたよ。彼は僕がやっていることをたいてい気に入っていた。ただ、僕と違う意見があるときは、とてもていねいにそれを伝えてくれた。あんなに礼儀正しい人には、これまで会ったことがない。もちろん、僕はできるだけ彼のサジェスチョンを生かすように心がけたよ」

●あなたにとって、彼の音楽の魅力とは?

「とてもワイルドで、予測がつかないところかな。しかも、場合によっては、ゾッとするようなところさえある。それでいて、彼は技術的にも熟練している。彼は生まれながらのミュージシャンであると同時にクラシックの教育もちゃんと受けているんだ。それって珍しいタイプだろ? 多くの人達はロッキーの音楽の原始的と言うか神秘的なところばかり評価しているけど、実のところ、彼は昔ながらのショーマンシップの巧みなセンスとともにそれをやっているんだよね」

●実際につきあってみて、彼はどんな人物でしたか?

「信じられないぐらいやさしくて、奥ゆかしくて、一緒にいる人間によけいな気を遣わせないチャーミングな人だよ。そういう人柄が逆に災いして、彼を窮地に追い込んだことも何度もあったと思う。彼はじっくり考えてから喋るタイプなんだ。彼の言うことすべてが笑えるか気味悪いほど詩的のどちらかなんだよ。習慣に縛られた人であると同時に彼の興味を捉えた気味の悪い小物や言葉の響きや未だに口ずさんでいる過去何百回と聴いたロック・ソング、あるいは夕暮れ時の心地いいそよ風を本当に楽しめる人でもある。たぶん、ほとんどエゴっていうものを持っていないミュージシャンなんじゃないかな。だけど、彼は自分がある人達にとって伝説であることはちゃんとわかっているんだよね」

●アルバムの中で、あなたが一番気に入っている曲は?

「"ビー・アンド・ブリング・ミー・ホーム"だね。なぜって、その曲はまさにロッキーの自伝だからね。彼はリスナーに詩的なやり方ではあるけれど、とてもダイレクトに彼がこれまで経験してきた大きな喜びと信じられないほどの痛み、そして希望と愛と思いやりについて、彼が学んできた全てを語りかけているんだ」

●今年3月、SXSWでロッキーとオッカーヴィル・リヴァーの共演ライヴを観たとき、フィードバック・ノイズを巧みに操るローレン・ガージョロのギター・プレイに感銘を受けました。彼女がオッカーヴィル・リヴァーに加入したいきさつは?

「前のギタリストのブライアン・キャシディーが子育てに専念するためにバンドを離れることになったとき、彼女と何度か対バン経験があるキーボードのジャスティン・シャーバーンが紹介してくれたんだ。ローレンのプレイは今回のアルバムの大きな聴きどころの一つだね。彼女はとてもクリエイティヴな素晴らしいギター・プレイヤーなんだ。求められれば、求められるほど、その才能を発揮するし、逆にバッキング・プレイにも長けている。バッキングに徹することで、他のミュージシャンを引き立てることもできるんだ。僕は常々言っているんだ、彼女こそが今回のアルバムのMVPだって。今回のレコーディングは同じ曲を何度も何度も、ほとんど100回ぐらい演奏しなきゃいけなかったという意味で、とてもつらいものだった。それにもかかわらず、彼女は1回も愚痴をこぼさなかった唯一のメンバーなんだよ」

●ところで、あなた自身のことについても少し聞かせてもらってもいいですか? あなたはニュー・ハンプシャーのメリデンの出身だそうですね。なぜ、テキサス州オースティンに移ってきたんでしょうか? ニューヨークやロサンゼルスなど、ミュージック・シーンが盛んな街は他にもいっぱいあったと思うんですけど。

「大学に入るため、ミネソタのセント・ポールに引っ越すまでは自分がミュージシャンになりたいのかどうかわからなかった。僕がミュージシャンになろうと思ったきっかけは、勤め人になっていたらたぶん自殺願望に取りつかれると思ったからだ。でも、以前は作家か映画監督になりたいと考えていた。なぜって、その頃、僕は音楽なんてアート関係の仕事の中で一番みすぼらしいものだと思っていたからね。オースティンに引っ越したきっかけは、昔、一緒にバンドを組んでいた高校時代の友人がオースティンの大学に通いはじめたからだった。それにオースティンには活発なミュージック・シーンもあったからね。60年代には13thフロア・エレヴェーターズが活躍していたし、70年代にはウィリー・ネルソンがいた。そして、80年代にはバットホール・サーファーズのような奇妙なポスト・パンク・バンドがうようよしていた。ミュージック・ビジネスってことで言えば、ニューヨークやロサンゼルスなんだろうけど、オースティンにはそれよりも盛んなミュージック・シーンがあったんだ」

●現在のオースティン・シーンについては、どう思いますか?

「スプーンは、ずっと大好きだよ。スモッグのビル・キャラハンは――彼は今、オースティンに住んでいるんだけど、僕のオールタイム・フェイヴァリット・ソングライターの一人だよ」

●あなたのバンド、オッカーヴィル・リヴァーは『ザ・ステージ・ネームス』と『ザ・スタンド・インズ』という2枚のアルバムによって、全米規模の人気を確かなものにしましたね。そういう成功は望んでいたものでしたか?

「僕はいつも何かが起こることを期待している。だけど、そういう成功は予想もしていなかった。僕はいつもレコードを出すたび、それがみじめなほど大失敗をして、僕のキャリアを終わらせるんじゃないかと心配してしまうんだ(苦笑)。幸運なことに今のところ、物事はいい方向に進んでいるみたいだけどね。僕達には11年の活動歴があるんだ。決して一夜にして有名になったんじゃないんだよ。その事実が重要だと思う。この11年の間に何度も変化と実験のチャンスがあった。誰も僕らに注目していない間に僕らはこっそりと自分達の音楽を磨き上げてきたんだ」

●多くの人達がリリースを心待ちにしている新作の予定は?

「来年の3月頃にはリリースしたいね。だけど、どんな作品になるかは秘密にしておくよ。だって、今、ここで明かしてしまったら、アルバムがリリースされたとき驚きがなくなってしまうからね」

●今後の予定を教えてください。

「新しいアルバムがリリースされたら、1年かそれ以上、ツアーに出るつもりだよ。それまではブルックリンでのんびりと書いたり読んだり、レストランやバーに行ったり、友達に会ったりしながらのんびり過ごそうと思っている。だって、それらはツアーに出てしまうとできないことばかりだからね」

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トゥルー・ラヴ・キャスト・アウト・オール・イーヴィル/ロッキー・エリクソン・ウィズ・オッカーヴィル・リヴァー(Lively Up  XQJH-1001)

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