がぜんやる気が出てきたミシシッピのレーベル、BIG LEGAL MESS RECORDSの2019年を振り返る

Alexarose 

Alexa Rose

 

 

 これまでやる気がなかったわけでは、決してないと思う。しかし、である。昨年19年は1月からハント・セールス・メモリアルの『Get Your Shit Together』を皮切りに新たに立ち上げた傘下レーベル、バイブル&タイヤ・レコーディング・カンパニーからも含め、レーベルの新展開を思わせる全9タイトルを立て続けにリリースしているんだから、親レーベルのファット・ポッサムならともかく、傘下レーベルであるビッグ・リーガル・メスまでチェックしているリスナーが果たして日本にどれだけいるのか心許ないところはあるものの、この機会に記事にしておきたい。

 

 1年で全9タイトルというのは、取り立てて多いとは言えないかもしれない。しかし、レーベルのトップであるブルース・ワトソンがほぼ一人でレーベルの経営を切り盛りしながら、メンフィスにあるスタジオ、デルタ・ソニック・サウンドを拠点に自らプロデューサー/エンジニアとして、リリース作品の制作に携わっていることを考えれば、リイシューやシングルも含めた数とは言え、1年に9タイトルは立派なものだ。

 

 

Brucewatson 

Bruce Watson

 

 

 元々、レコーディング・エンジニアとして、90年代半ば、マシュー・ジョンソン率いるファット・ポッサム・レコードに関わるようになったワトソンは、R.L.バーンサイドとジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが共演した『A Ass Pocket Of Whiskey』(96年)、『Mr. Wizard』(97年)をはじめ、数々の作品を手掛けたのち、ゼネラル・マネージャーとしてファット・ポッサムの経営にも参加。やがてファット・ポッサム傘下に自らハンドリングできるレーベル、ビッグ・リーガル・メスを立ち上げると、より幅広いインディ・ロック・アクトをリリースするようになったファット・ポッサムから元々のレーベル・カラーを受け継ぎ、主にレーベルの地元であるミッシシッピの老ブルースマンやブルースをはじめとするルーツ・ミュージックの影響が色濃いローカルのインディ・ロック・アクトの作品をリリースしてきた。

 

 19年のビッグ・リーガル・メスには、リリースに勢いが出てきたことに加え、もう2つトピックがある。

 

 1つは、かつてスタックス・レコードにブッカー・T&ザ・MG'sが、フェイム・スタジオにスワンパーズがいたようにハウス・バンドを組んで、ビッグ・リーガル・メスからリリースするソロ・アーティストのレコーディングで演奏させたことだ。

 

 ハウス・バンドのメンバーは、エイミー・ラヴィールの公私にわたるパートナーとしても知られるウィル・セクストン(Gt)、シンガー・ソングライターとしてソロ・アルバムもリリースしているマーク・エドガー・スチュワート(Ba)、シティー・チャンプス、JJ・グレイ&モフロ、クリス・ロビンソン・ブラザーフッドなどでプレイしてきたジョージ・スラピック(Dr)ら、ワトソンが信頼するメンフィスの熟練プレイヤーたちだ。スタジオでは阿吽の呼吸で、ワトソンのアイディアを形にしていくに違いない。リリースに勢いがついた理由は、そこにもあるんじゃないか。

 

 そして、もう1つのトピックは前述したように新たにゴスペル専門のバイブル&タイヤ・レコーディング・カンパニーを立ち上げたことだ。

 

Deep Soul Gospel Music is Soul Music without the sex.」と掲げるこのレーベルは、これまでビッグ・リーガル・メスからオブスキュアな作品の発掘およびリイシューも含め、実はゴスペルのアルバムを多数、リリースしてきたワトソンのゴスペル熱と言うか、ゴスペル愛が形になったものだ。やるんだったら、専門レーベルを作って、とことんやろうということなのだろう。

 

 90年代にデルタ・ブルースを蘇らせたワトソンが今度は、ゴスペルを蘇らせようとしている、とすでに一部では話題になっている。

 

 ここからビッグ・リーガル・メスのリリースは、さらに勢いを増していきそうだ、と期待せずにいられないが、同レーベルが転機を迎えた年として、後々、語られるに違いない19年のリリースを、最後に振り返っておきたい。

 

 

 

Hunt

Get Your Shit Together / Hunt Sales Memorial 

 イギー・ポップ、デヴィッド・ボウイらと共演歴があるドラマー、ハント・セールスが長年のドラッグ中毒を乗り越え、64歳にしてソロ・デビュー。ブルース、R&B、ファンク、カントリーの影響も滲むエネルギッシュなロック・アルバムを作り上げた。ハント・セールス版の『Lust For Life』なんて趣も。

 

 

Willie

The Man From The Hill Willie Farmer 

 56年生まれのミシシッピのブルースマン。弾き語りだったデビュー・アルバムから一転、ハウス・バンドの面々に加え、ジンボ・マサス、ファット・ポッサムからデビューしたリズ・ブラッシャーも参加した、この2作目ではヒプノティックなデルタ・ブルースのみならず、モダン・ブルースからファンキーなものまで、多彩なスタイルを楽しませる。

 

 

Jimbo

Incinerator / Jimbo Mathus  

 バディ・ガイに認められたギタリストが、ここではピアノにチャレンジ。ジンボ・マサス印のスワンプ・ロックにアーバンなバラードという新たな魅力が加わった。因みにジンボはプロデューサー、セッション・プレイヤーとしてもファット・ポッサムおよびビッグ・リーガル・メスに貢献している。

 

 

Justin

Take Heart, Take Care / Justin Peter Kinkel-Schuster 

 ミシシッピのインディ・ロック・バンド、ウォーター・ライアーズやウィル・ジョンソンと組んだマリー/レパントでもリリースがあるシンガー・ソングライターによる2作目のソロ・アルバム。星の数ほどいる“オルタナ世代のニール・ヤング”の一人には違いないが、ビタースウィートなメロディーには、フォロワーの一言では片づけられない魅力がある。

 

 

Barnes  

Nobody's Fault But My Own / The Sensational Barnes Brothers (Bible & Tire Recording Co.) 

 クリスとコートニーの兄弟デュオがバイブル&タイヤ・レコーディング・カンパニーの第1弾アーティストとしてデビュー。元々は、兄と兄嫁と組んだバーンズ・ファミリーで歌っていた。「セックス抜きのソウル・ミュージック」とワトソンが掲げるとおり、サザン・ソウルとしても楽しめる。演奏はもちろん、ハウス・バンドが担当している。

 

 

Elizabeth  

The D-Vine Spirituals Recordings / Elizabeth King And The Gospel Souls  (Bible & Tire Recording Co.)

 現在も歌いつづけているゴスペル・シンガー、エリザベス・キングが70年代にメンフィスのレーベル、D-ヴァイン・スピリチュアルズに残した録音を集大成したコンピレーション。センセーショナル・バーンズ・ブラザーズ同様、ソウル・ミュージックとして楽しむことができる。中には、60年代のビート・バンドを思わせる演奏もあり。

 

 

Alexa

Medicine For Living / Alexa Rose 

 ノース・カロライナの大学でフォーク・ソングを研究した才媛。しかし、このデビュー・アルバムはカントリー・ロッキンでソウルフル。しかも、ポピュラー・ミュージックとして広がりの感じられるものに。ビッグ・リーガル・メスの新境地。演奏はハウス・バンドが担当している。

 

 

Jmh

Run Get My Shotgun / Jessie Mae Hemphill 

 故ジェシー・メイ・ヘンフィルが残した89年の演奏にワトソンがハウス・バンドとともに若干の音を加え、発掘リリース。当時66歳のジェシー・メイによるエネルギッシュかつヒプノティックな歌とギター・プレイとともにノース・ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースの神髄を、現代に蘇らせたワトソンの仕事は見事。うっすらとファイフが鳴る瞬間もある。

 

 

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The Wild Side of Life / Kenny Brown

 かつてファット・ポッサム/ビッグ・リーガル・メスから2枚のソロ・アルバムをリリースしたケニー・ブラウンが久々にビッグ・リーガル・メスからシングルをリリース。故R.L.バーンサイドの右腕として知られるギタリストが、自らのルーツにあるカントリーの影響を物語るようにハンク・トンプソンの「The Wild Side of Life」とマール・ハガードの「The Bottle Let Me Down」をカヴァーしている。

 

 

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COMEBACK MY DAUGHTERS インタビュー「EP『WORN PATH』にサブスクの影響とバンドの変化~僕らが腑に落ちるリリースの仕方」

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 長いトンネルを抜け、目の前の視界が一気に開けた。COMEBACK MY DAUGHTERS (以下カムバック)が新代田FEVERで2019年11月17日、6年ぶりに開催したワンマンライヴは、そんな印象があった。その日、彼らはEP『WORN PATH』もリリースした。全6曲というまとまった曲数を収録した音源としては、5thアルバム『Mira』以来6年ぶり。エモをバックボーンに持ちながらルーツミュージックの要素も取り入れるカムバックサウンドの最新モードを物語る『WORN PATH』を聴けば、この数年、ライヴ活動を続けながらバンドが足踏みしているように感じていたファンも、ようやく彼らが新たな一歩を踏み出してくれたと思うに違いない。11月17日のワンマンでもバンドの気持ちが前向きに変化したことを思わせる言葉が、フロアを埋めた観客を歓ばせた。

 この数年間、もやもやしながら思っていたことを訊くには絶好の機会と思い、インタビューをオファーしたところ、5日間におよぶタイ遠征から帰ってきたばかりのバンドを代表して、高本和英 (Vo / G)とCHUN2 (G)が快く応じてくれた。2人の言葉から窺えるカムバックの“今”は、さらにファンを歓ばせることだろう。彼らは『WORN PATH』のアナログ盤のリリースとリリースツアーも予定しているという。結成から21年。カムバックは、なかなかしぶとい。因みに『WORN PATH』はバンドのウェブサイトとライヴ、一部店舗で入手可能。また、各サブスクリプションサービスでも配信されている。

つづき

 

 

 

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ルーツ・ミュージックのセンセーション、SIERRA FERRELLをスターにするため一流チームが集結

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 インスタグラムを見れば、明らかだが、センシュアルな魅力に加え、メルヘンの世界に迷い込んでしまったんじゃないかと思わせる、頭のネジがはずれてしまったようなアピールが、音楽性のユニークさもさることながら、シエラ・フェレルの存在を際立たせている。

  だから、非公認のファンサイトが作られるカルト人気も頷ける。

  そんな彼女を、半世紀に及ぶ歴史を持つルーツ・ミュージック系の名門レーベル、ラウンダーが大々的に売り出そうというんだから、8月にそのニュースを聞いた時は、かなりびっくりだった。本格的なデビューとなるラウンダーからのリリースは、来年というから、まだちょっと先だが、来年、シエラ・フェレルはルーツ・ミュージック・シーンと言うか、アメリカーナ界隈では時の人になるんじゃないか。今からそんな予感にワクワクしている。

  YouTubeの視聴回数という意味では、120万視聴を超えている「In Dreams」なのかもしれないが、まずは「Rosemary」「The Sea」のMVや「Why'd Ya Do It」のスタジオ・ライヴを見ていただきたい。クラシックなドレスやタトゥーも含め、シエラが力を入れていると思しきヴィジュアルにおけるアピールからも、彼女がなかなかエキセントリックな感性の持ち主であることやラウンダーが彼女のことを、“Rising roots music sensation”と絶賛する理由がわかるだろう。

 

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 シエラ・フェレルとは、どんなバックグラウンドを持ったアーティストなのか。

  ウェスト・ヴァージニア州チャールストンの出身で、20歳の時、ギターを手に取ると、全米各地をバスキングしながら旅してきたということ以外、詳しいことはわからない。The Rusty Picks、The Nehisというブルーグラス・バンドにメンバーとして加わっていたこともあるらしい。

  そして、いつしかナッシュビルに落ち着き、16年頃からレコーディングしはじめたジプシー・ジャズとカントリーとブルースが溶け合った楽曲をBandcampを通じて発表するようになったシエラは、やがて注目を集めていった。

  トラベルガイドのForder'sは19年6月の「Meet the new class of music city musicians」というナッシュビルの要注目の新進アーティスト10組を選ぶ記事で、あのサッカー・マミーとともにシエラのことを取り上げている。

   そんな評価は本格デビューとともに、さらに大きなものになるだろう。

 因みにラウンダーと契約したシエラは同時にスタージル・シンプソン、マーゴ・プライスを所属するパラダイム・エージェンシーとブッキング、そしてアヴェット・ブラザーズを手掛けるドルファス・ラムスールとマネージメント契約も結んでいる。

 ハンク・ウィリアムズ3世のファンが始めた硬派なカントリー・ミュージックの専門サイト、Saving Country Musicは「シエラは彼女をトップに押し上げる一流のチームを手に入れた!」と興奮気味にそのニュースを伝えている。

 

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LIVE REPORT: 19年10月14日 SION with THE MOGAMI「SION-YAON 2019」@ 日比谷野外大音楽堂

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 「こんな大変な時に、みんな来てくれてありがとう!」 

 毎年恒例の、ではあるけれど、毎回、印象が違うのは、30余年のキャリアや技術を超える何かがそこにあるからだ。 

 台風19号が日本列島に多くの傷跡を残していったばかりだからなのか、雨が降っていたからなのか、メンバーに花田裕之(Gt)がいたからなのか、それとも来年、野音でできないかもしれないからなのか(ほんと、オリンピック要らねえな)、今年は例年以上に気合が入っていた。終始、エネルギッシュに動き、足もよく上がっていた(って説明は意味がわからないかもしれないが)。昨年12月のアコースティックツアーを見たとき、すでにその予感があったとは言え、渾身の歌を披露したあと、ステージに座り込んでしまったこともあった何年か前のライヴがウソみたいだ。

  パンク・ブルースな「だからこんな俺が嫌いだ」で今一度、自分に鞭を入れるようにライヴはスタート。SIONのライヴにビールを持ってふらっと遊びに来たロバート・クワインの姿やMO'SOME TONEBENDERの百々さんと、そのロバート・クワイン談議で盛り上がった思い出が蘇り、1曲目からいきなり胸が熱くなる。

  「SORRY BABY」ではSIONからバトンを渡されたように花田が2番を歌い、客席を沸かせ、一度くらいこんなことを言われてみたいと思わせる「遊ぼうよ」では観客がシンガロングの声を上げた。そして、天国の扉をノックしたんじゃないかと思わせる酩酊を詩的に歌いあげる「きれいだ」ではアルバム・ヴァージョンよりもダイナミックな演奏が観客を圧倒した。

 

「忘れられない人のひとりくらい」を歌う前に、さわりだけ加えたショーケンの「ハロー・マイ・ジェラシー」も感慨深かった。なぜなら、SIONの歌を聴きながら、SION ってひょっとしたらショーケン(の歌が)好きなんじゃないかとしばしば感じていたからだ。ちょこっとだけだったけど、SIONが歌うショーケンナンバーを聴けたという意味でも、今年は特別だった。 

 そして、野音ではすっかりお馴染みになった観客全員が歌う「マイナスを脱ぎ捨てる」のシンガロングは年々、その声が大きなものに! 今年もそこにいる全員の胸にしっかりと感動を刻みこみながら、SIONTHE MOGAMIの面々はダブル・アンコールに応え、「笑っていくぜ」と「今さらヒーローになれやしないが」の2曲を披露。《笑っていくぜ 堂々と行くぜ 俺たちはこれからさ》と歌う前者もさることながら、自らを《オンボロ車》(「ONBORO」)にたとえるSIONがそれを受け入れた上で、それでもヒーローになることをあきらめていないぜという思いを、静かに歌う後者は、来年、還暦を迎える今のSIONだからこそ歌えるバラードだ。 

前述したアコ―スティックツアーにひきつづき、新たな闘志を燃やし始めたことを改めて、それもさらにパワフルに感じさせてくれたことが何よりもうれしかった。

 

SETLIST

 

だからこんな俺が嫌いだ

もの悲しい風

ウイスキーを1

SORRY BABY

ガラクタ

気力をぶっかけろ

後ろに歩くように俺はできていない

ありがてぇ

夢の世界

胸を張れ

遊ぼうよ

夜しか泳げない

きれいだ

俺の声

お前の空まで曇らせてたまるか

ハロー・マイ・ジェラシー~忘れられない人のひとりくらい

春よ

新宿の片隅から

街は今日も雨さ

 

EN

お前がいる

Hallelujah

マイナスを脱ぎ捨てる

 

EN

笑っていくぜ

今さらヒーローになれやしないが

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ブルックリンのインディ・フォーク4人組、BIG THIEFがバンドの神髄をとことん見せつけた2部作の後編となる新作『Two Hands』をリリース

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 結成から5年目を迎えたブルックリンのインディ・フォーク・バンド、ビッグ・シーフが今年5月にリリースした3rdアルバム『U.F.O.F.』は、名門インディ・レーベル〈4AD〉移籍第1弾にふさわしい、新境地を印象づける作品となった。 

「疑う余地のない最高傑作」と謳ったピッチフォークをはじめ、多くのメディアが『U.F.O.F.』を絶賛。今年が終わる頃には19年を代表するアルバムの1枚に数えられることは、まず間違いないと思うが、その『U.F.O.F.』、実は2部作の第1弾だったんだからびっくりだ。

 もっとも、バンド自身が2部作だと言っているわけではない。しかし、『U.F.O.F.』をレコーディングした1か月後、同じプロデューサー(アンドリュー・サルロ)、同じエンジニア(ドム・モンクス)とともに『U.F.O.F.』とは対極とも言えるテーマの下、今回、リリースする『Two Hands』をレコーディングしているんだから、『U.F.O.F.』と『Two Hands』は2部作と考えるのが自然だろう。

 当時、作っていた曲の数々が〈天〉と〈地〉という2つのテーマに分かれていると感じたメイン・ソングライターのエイドリアン・レンカー(Vo, Gt)とバック・ミーク(Gt)、マックス・オレアルチック(Ba)、ジェームズ・クリヴチェニア(Dr)らメンバーたちは、〈天〉と〈地〉、それぞれテーマにふさわしいレコーディングを行い、お互いがお互いの個性を際立たせる対になる作品としてリリースしようと考えたようだ。

 ワシントン州の湿った森の中にあるベアー・クリーク・スタジオで、音響効果も駆使しながら、〈天〉の曲をレコーディングした『U.F.O.F.』に対して、『Two Hands』はテキサス州の乾いた赤土のペカン果樹園にあるソニック・ランチ・スタジオで〈地〉の曲を、メンバー4人だけでライヴ・レコーディングした。感情の揺れをダイナミックに表現するエイドリアンの歌の魅力を最大限に生かすことに専念したアンサンブルと音数を削ぎ落とすことで、バンドの核にあるトラディショナルなフォークの影響を剥き出しにした音像、そして内省的な歌詞という共通点はあるものの、『U.F.O.F.』と『Two Hands』で印象がかなり異なるのは、バンドが求めるものと、レコーディング環境及び方法の違いがあるからだ。

 『Two Hands』の大きな聴きどころは、フォークの影響が色濃い「Rock and Sing」「Wolf」の繊細さもさることながら、やはり生々しいバンド・サウンドにある。中でも、すでにライヴで披露しているForgotten EyesShouldersNotのリスナーを圧倒する力強いバンド・サウンドとエイドリアンの歌は、『U.F.O.F.』では敢えて抑えていたものだ。サイケデリックとも言える『U.F.O.F.』の世界観を理解しながらも、若干の物足りなさを感じていたリスナーも、圧巻という言葉がふさわしい「Not」のエモーショナルでフリーキーな歌と演奏を聴けば、ビッグ・シーフが決して柔になってしまったわけではないことがわかるはず。緊迫感の中でエイドリアンがファルセットを交えた美しい歌声を披露している「Two Hands」の躍動感もバンドの絶好調を伝えている。

 メンバー自身が初めてアルバムのジャケットに姿を現した『U.F.O.F.』にひきつづき、『Two Hands』もメンバー4人のポートレートが使われている。古い家族写真を使った1stアルバム『Masterpiece』(16年)と2ndアルバム『Capacity』(17年)に対して、「『U.F.O.F.』では新しい家族写真を使った」とエイドリアンは語っていたが、精力的なツアーを通して、家族になれたと思えるほど、より強い絆を感じたというバンドの今をアピールするという意味でも、『U.F.O.F.』と『Two Hands』には2部作と言える繋がりが感じられるのだった。

 そして、17年に予定されながらビザの問題でキャンセルになってしまった待望の来日公演が決定した。 

BIG THIEF JAPAN TOUR 2020

東京: 5/7 () SHIBUYA WWW X

大阪: 5/8 () UMEDA SHANGRI-LA

 

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Two Hands (4AD / Beat)




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MASHED POTATO RECORDSがドキュメントしたニューオーリンズのローカル・シーンの活況

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 ポスト・カトリーナなんて言ってみたいニューオーリンズのローカル・シーンの活況を、ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ、デズロンズ、ベンジャミン・ブッカーの活躍とともに取り上げた『Benjamin Bookerが語るジャズでもファンクでもないニューオーリンズのミュージック・シーン』という記事を、《彼らの活躍に刺激され、以前のニューオーリンズ・カラーに染まらないおもしろいバンドがもっともっと現れるかもしれない。》と締めくくってから、実に4年。

 
 長かったような、短かったような。そこに足を運ばなければわからなかったシーンの活況が漸く音源という形で、ニューオーリンズから遠く離れた日本にいる僕らにもわかるようになってきた。

 
 それがMashed Potato Records(以下MPR)という新興のインディー・レーベルがリリースした『Mashed Potato Records Vol.I』『Mashed Potato Records Vol.II』という2枚のコンピレーション・アルバムだ。

 

One

 

Two

 

 そこにはストリート、カフェ、バーなどで活動しているローカル・ミュージシャンたちの演奏が計24曲、収録されている。

 
 MPRは元々、地元のシンガー・ソングライター、ダフ・トンプソンと友人のビル・ハワードによるレコーディング・プロジェクトとして、16年の春にスタートした。

 
 ダフとビルの2人は自分たちも含め、地元のミュージシャンたちの演奏がニューオーリーンズ以外の人たちに届かないまま、その場限りのもので終わってしまってはもったいないと考えたのだろう。早速、ローカル・シーンの記録として、仲間のミュージシャンたちの演奏をレコーディングしはじめたところ、レコーディング場所として自宅を提供しながら、演奏にも参加していたデズロンズのメンバー、サム・ドアーズによる「せっかくなんだからレーベルを始めてみないか?」という一言から2人のレコーディング・プロジェクトは、にわかにレーベルの立ち上げに発展していった。

 
 サムは2か月で150曲録ってしまった2人の勢いに刺激されたようだが、デズロンズの活動のかたわら、精力的に仲間のミュージシャンをサポートしてきたサムのローカル・シーンに対する思いは2人と同じだったようだ。

 

Studio

Sam Doors(右端)

 

「ニューオーリンズには、たくさんの音楽とたくさんのミュージック・ビジネズがある。だけど、音楽産業がないんだ」

 
 そう語るサムも、ダフとビルも、多くの才能あるミュージシャンたちが音源を作ることなく--より多くの人たちに音楽を届ける手段を持たずに活動している状況を変えたかったのだ。

 
 レーベル名は『Mashed Potato Records Vol.I』に収録されているダフの「I Don't Wanna Wake Up」改め「Crabwalk」という曲の♪We can do the Mashed Potato any time that we want.という歌詞からMashed Potatoに決まった。そして、コンピレーション・アルバムの制作費とサムの家をスタジオに改造する費用を、Kickstarterで募ったところ、目標額の15,000ドルを超える16,287ドルが集まった。

 
 今年8月、LPとCDがリリースされた『Mashed Potato Records Vol.I』『Mashed Potato Records Vol.II』の収録曲は以下の通り。

 

『Mashed Potato Records Vol.I』

1. Run Wild / Twain and The Deslondes
2. Crab Walk! / Duff Thompson and the Full Grown Men
3. Rosemary / The Good Gollies
4. Look at the Moon / Jonathan Henley
5. Did Life Make You Bitter? / Carver Baronda
6. Milky White Way / Jackson and the Janks
7. Island / Max and the Martians
8. Playing the Fool / The Lostines
9. Dream of You / Pony Hunt
10. I Don't Miss the Old Times / Duff Thompson and the Full Grown Men
11. No Mama Blues / The Lostines
12. Rare Feeling / Twain

 

『Mashed Potato Records Vol.II』

1. Stumblin' / Jackson and the Janks
2. If Nothing Else Comes Along / Carver Baronda
3. Time / Leonie Evans
4. Tupelo Pine / Tuba Skinny
5. Burning House Of Dreams / John James Tourville
6. Rocket Ship / Pony Hunt
7. It's Been Wrong / The Lostines
8. You're Pretty Good / Duff Thompson
9. Dallas Does Debbie / Chris Acker & The Growing Boys
10. Doorways / Liza Cane
11. Stole My Heart / Sabine McCalla
12. The Game / Esther Rose

 

 その大半が初めて名前を耳にするアーティストだが、だからこそリリースした意味がある。

 
 アーリー・ジャズ、カントリー、ブルース、フォーク、R&Bの影響が色濃い曲が持つノスタルジーとアナログ・テープを使ったライヴ・レコーディングによるローファイ感が相まって、そこには時間の流れが止まったような世界が広がっている。アメリカーナと言いかえることができるルーツ・ミュージックに目がない人なら、きっと堪らないんじゃないかと思う。

 

 『Vol.I』『Vol.II』に収録されている計17組の中から、筆者がこれはと思うアーティストを紹介しよう。

 

 

Duff

Duff Thompson

 ビッグ・シーフのバック・ミークもカヴァーした「I Don't Wanna Wake Up」改め「Crabwalk」に窺える50's風のポップ感覚が、ダフ・トンプソン&ザ・フル・グローン・メン名義で活動するダフの持ち味。ストリングスやピアノも使った洒脱なアレンジからは、単にルーツィーなだけじゃないセンスが感じれる。パワー・ポップ・ファンにも薦めてみたい。

 

Jackson

Jackson And The Janks

 
 ニューヨークでトラッド・フォークやフォーク・ブルースを、時折、フィドルもプレイしながら、アコースティック・ギターで弾き語りしていたジャクソン・リンチが新たにニューオーリンズで始めたガレージ・ゴスペル・バンド。『Vol.I』収録のエルヴィス・プレスリーも歌ったトランペティアーズの「Milky White Way」、『Vol.II』収録の「Stumblin'」の2曲を聴くかぎり、サムもメンバーに名を連ねるこの新バンドでは、ドゥーワップも含む50~60年代のR&Bを追求しようとしているようだ。

 

Lostines 

The Lostines 


 ノスタルジックなカントリーに加えた60'sのガール・グループを思わせるドゥーワップ・コーラスが、カミール・ウィンド・ウェザーフォードとケイシー・ジェーン・リース・カイグラーからなるデュオの存在をユニークなものしている。2人の歌声、2人が重ねるハーモニーともに溌剌としているにもかかわらず、とことんポップとはならずに、ほのかに暗さが漂うところがいい。『Vol.1』『Vol.II』に収録された3曲で演奏を務めるのは、サムを含むデズロンズのメンバーとダフ・トンプソンたちだ。因みにその他、サムたちはコンピレーションの多くの曲に参加している。バンドよりもシンガー・ソングライターが多いコミュニティであることを踏まえて、MPRを専属バンドのいるレーベルにしたいと考えているそうだ。レーベル独自のサウンドを特徴づけたいという思いもあるのだろう。そんな彼らはスタックスやサンを、理想のレーベルに掲げている。

 

Sabine

Sabine McCalla

 
 ニューヨーク生まれのサビーンがニューオーリンズにやって来たのは、姉 レイラ ・マッカラの存在が少なからず影響しているんだろう。もしかしたら、音楽を始めたきっかけもレイラだったのかもしれない。しかし、現在の彼女は姉とは違う道を歩んでいる。フォーク、ジャズ、ブルース、R&B、ラテンを大胆に混ぜ合わせるレイラとは違って、サビーンはもっとストレートにR&Bを追求しているようだ。『Vol.II』収録の「Stole My Heart」はドラムとサビーンの歌だけからなるプリミティヴな曲だが、現在、サビーンのバックを務めるバンド、The Dew Dropsとぜひアルバムを作ってほしい。 

 

Esther

Esther Rose

 
 かつて夫婦デュオとして活動を共にしたルーク・ウィンズロウ・キングやジャック・ホワイトを魅了した歌声の持ち主である(ジャックは『Boarding House Reach』のレコーディングに彼女を招いた)。デトロイトで出会ったルークと恋に落ち、ニューオーリンズにやってきた彼女はルークと離婚後、27歳の時に初めてギターを手に取り、曲を作り始めたという。それからわずか3年でMPRの協力の下、ソロ・デビュー。それから2年、今年8月にサンフランシスコのインディ・レーベル、Father / Daughter Recordsから2ndアルバム『You Made It This Far』をリリースしたことをきっかけにカントリーを基調にアーリー・ジャズやクラシックなソウルの影響も滲ませながらユニークな曲を作ることができるシンガー・ソングライターとして、多くのメディアから注目を集め始めた。ハレイ・フォー・ザ・リフ・ラフやベンジャミン・ブッカーがそうだったようにエスターもまた、ニューオーリンズのローカル・シーンに収まりきらない、全国区の人気を得るに違いない。

 

 MPRが今後、ニューオーリンズのローカル・シーンからどんな音楽を届けてくれるのか楽しみにしている。MPRは9月にストリート・ジャズ・バンド、チューバ・スキニーのメンバーでもあるマックス・ビーン・カーンによるロックンロール・ダンス・バンド、マックス・アンド・ザ・マーシャンズ義の7インチ・シングル「Please Hold On / Love On Vacation」をリリースしたばかりだ。

 

Max

Max and The Martians

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若者は、なぜアラバマを目指すのか?:THE TEXAS GENTLEMENの場合

Texasgentlemen

 

それはマッスル・ショールズにFAMEスタジオがあるからだが、なぜFAMEスタジオなのか?

 

179月にリリースしたデビュー・アルバム『TX Jerry』を、FAMEスタジオでレコーディングしたテキサス州ダラスのロックンロール・バンド、テキサス・ジェントルメンの場合、その理由ははっきりしていた。

 

FAMEスタジオは、バンドのリーダーで、『TX Jerry』のレコーディングではプロデューサーとして指揮も取ったボー・ベッドフォード(Key)のお気に入りのスタジオだったのである。

 

テキサス・ジェントルメンを始める以前から、数々の作品のプロデュースを手掛けてきたボーがダラスでモダン・エレクトリック・サウンド・レコーディングスというスタジオを共同で経営しているにもかかわらず、プロデューサーとして関わる作品のレコーディングを、たびたびFAMEスタジオで行っていることからも、彼がいかにFAMEスタジオを気に入っているかが窺える。

 

ボーはFAMEスタジオの魅力を、こんなふうに語っている。

 

「入ってすぐにFAMEスタジオが持つ歴史の重みを感じたんだ。そこでレコーディングすることは、マジック以外の何物でもない。ライヴ・ミュージックをレコーディングするために作られたスタジオなんだ。スタジオにあるすべての楽器とともに起こるマジックがマイクに流れ込む。それがいわゆるマッスル・ショールズ・サウンドってやつなんだ。『TX Jelly』にある魅力とヴァイブの大半は、それだ」

 

ボーはすっかりFAMEスタジオの“鳴り”と、「歴史の一部になれるかもしれない!」とそこで演奏するミュージシャンをやる気にさせるヴァイブに惚れこんでいた。当然、いずれ自分の作品もFAMEスタジオで、と考えていたに違いない。

 

そして、そのチャンスは168月にやってきた。

 

ボーがレコーディングやライヴの現場で顔を合わせるダラス界隈のミュージシャンたちとバンドを結成してから丸3年。レオン・ブリッジス、ジョナサン・タイラー、ニッキー・レーン、ポール・コーセンらのバッキング・バンドを務めるかたわら、テキサス・ジェントルメンを名乗って、ダラスを中心にライヴ活動に精を出していた彼らの存在はその頃、すでに全国区のものになりつつあった。

 

きっかけは167月に出演したニューポート・フォーク・フェスティバル。

 

自分たちのステージにゲストとして、クリス・クリストファーソンを迎えたことで、テキサス・ジェントルメンの名前は、47年ぶりに実現したクリストファーソンのニューポート・フォーク・フェスティバル帰還のニュースとともに全米に伝えられた。

 

すると、翌8月、アラバマ州マッスル・ショールズで開催されるシンディグに急遽、出演が決まった。シンディグはファッション・デザイナーのビリー・リードが09年から主催している毎年恒例の音楽とファッションと食のイベントだが、出演者の1組がキャンセルになったため、テキサス・ジェントルメンに声が掛かったらしい。

 

追い風を感じたボーは、せっかくバンド全員でマッスル・ショールズに行くのなら、とFAMEスタジオを4日間、押さえると、遠征のついでにレコーディングを敢行した。強行軍にも思えたが、スタジオを知り尽くしているボーと経験豊富なメンバーたちには、4日あれば十分だったのだろう。メンバーによるオリジナル曲を中心に全28曲をレコーディングしてしまったという。その後、ダラスで追加レコーディングを行い、11曲を厳選。そして、完成させられたのが『TX Jelly』だった。因みにレコーディング・エンジニアは、ジョナー・トルチンが全幅の信頼を寄せるFAMEスタジオのジョン・ギフォード3世。

『TX Jerry』のトップを飾る「Habbie Doobie」のMV

 

TX Jerry (New West)

 

  

ファンキーで、ホンキー・トンキンで、ソウルフル。そして、ジャム・バンドっぽいところやブリティッシュ・ビートの影響も散りばめつつ、全体的にほどよい洗練が感じられるところが大きな聴きどころとなっている。

 

そこが彼らの真骨頂。

 

ブリティッシュ・スワンプなBondurant Womenや、アーバンでジャジーなところもあるバラードの「Superstition」のような曲は、西部のならず者を連想させるその見た目からは、ちょっと想像しづらい。

 

そんな『TX Jerry』の多彩な魅力は、幅広いアーティストのバック・バンドを務めてきたメンバーたちだからこそ持てる職人的センスの賜物なのだと思うが、その『TX Jerry』はテキサス・ジェントルメンの存在を、世界中に印象づけるとともにボーをはじめとするメンバーたちのプレイヤーとしての実力も改めてアピールしたと思う。

 

これからテキサス・ジェントルメンとしての活動はもちろんだが、セッション・プレイヤー、バッキング・バンド、そしてボーに関してはプロデューサーとしての活躍の機会もどんどん増えていくことだろう。

 

彼らの今後に期待しながら、最後にボーをはじめ、テキサス・ジェントルメンのメンバーたちが参加したアルバムをリリース順に紹介しながら、彼らの歩みを振り返っておきたい。作品ごとに奏でるさまざまなサウンドからは、なぜ彼らがバッキング・バンドとして重宝されるのか、その理由が窺える。

 

 

My Gospel / Paul Cauthen (Lightning Rod)  16年10月

オースティンのカントリー・デュオ、サンズ・オブ・ファーザーズのヴォーカリスト、ポール・コーセンは、ジョニー・キャッシュを彷彿とさせるバリトン・ヴォイスの持ち主だ。もちろん、これは最大の誉め言葉。そんなポールのソロ・デビュー・アルバム。5060年代のカントリーを、現代に蘇らせながら、決していなたいサウンドにならないところがプロデューサーを務めたボーとその仲間たちの手腕。FAMEスタジオとモダン・エレクトリック・サウンドでレコーディング。

 

  


Highway Queen / Nikki Lane (New West)  172

クイーン・オブ・アウトロー・カントリーという評価を決定づけた3rdアルバム。乾いたカントリー・サウンドの中にソウル・ミュージックの影響がほんのりと漂う。ニッキーと彼女の公私にわたるパートナー、ジョナサン・タイラーのプロデュースの下、テキサス・ジェントルメンのメンバーも参加。ボーはかつてジョナサンのバンド、ノーザン・ライツのメンバーだったにもかかわらず、なぜか本作のレコーディングには参加せず。

 

 


Don’t Talk About It / Ruby Boots (Bloodshot)  182

オーストラリアの女性シンガー・ソングライターの2ndアルバム。オルタナ・カントリーとタグ付けされることが多いようだが、テキサス・ジェントルマンによる演奏は70年代のパンク/ニュー・ウェイヴ時代のロックを彷彿させる。60年代のガール・ポップを意識した曲もあり。ボーによるプロデュースの下、モダン・エレクトリック・サウンドでレコーディング。

 

 


Uncommon Prayer / Kirby Brown (Soundly Music)  189

テキサス生まれ、アーカンソー育ち。ニューヨークを経て、現在はナッシュビルを拠点としているシンガー・ソングライター。この2ndアルバムはボーによるプロデュースの下、テキサス・ジェントルメンとともにFAMEスタジオ、モダン・エレクトリック・サウンドでレコーディング。ストーンジーなロックンロール・ナンバーとザ・バーズを連想させるフォーク・ロック・ナンバーに加え、U2の「Still Haven’t Found What I’m Looking For」をフォーキーかつストーンジーにカヴァー。

 

 


To Each His Own / E.B. The Younger (Bella Union)  193

テキサス州デントンのインディ・ロック・バンド、ミッドレイクのメンバー、エリック・プリードが別名義でリリースしたソロ・アルバム。往年のウェストコースト・サウンドを、オルタナティヴでドリーミーなサウンドとともに現代に蘇らせた隠れた名盤。ボーとジョナサン・タイラーのプロデュースの下、テキサス・ジェントルメン、ミッドレイクのメンバーがバックアップしている。

 


Issues / Elaina Kay (Self Released) 198

タフな歌声とビッチな佇まいが魅力のダラスの女性カントリー・シンガーがポール・コーセンによるプロデュースの下、モダン・エレクトリック・サウンドでテキサス・ジェントルメンとともに完成させたデビュー・アルバム。エレキ・ギターのエッジをダイナミックかつブルージーに立たせたカントリー・ロック・サウンドに時折加える洗練とポップ風味がいかにもテキサス・ジェントルメンらしい。

 

 


Room 41 / Paul Cauthen (Lightning Rod)  199

ボーに加え、レオン・ブリッジスを手掛けたナイルズ・シティ・サウンドやマット・ペンス(ジェイソン・イズベル)ら、複数のプロデューサーとともに完成させた新作は、ファンクやディスコ・サウンドにもアプローチしている。

 

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若者は、なぜアラバマを目指すのか?:JONAH TOLCHINの場合

Jonahtolchin

Jonah Tolchin

 

 

それはマッスル・ショールズにFAMEスタジオがあるからだが、なぜFAMEスタジオなのか?

17年7月にリリースした1stフル・アルバム『Careless Soul』を作るにあたって、自分が作るカントリー・ソングにソウル・ミュージックの影響を取り入れたいと考えたナッシュビルのシンガー・ソングライター、ケイル・タイソンは、それならサザン・ソウルの聖地と謳われるFAMEスタジオしかないと考えたようだ。

もっとも 「巷でよく言われるスタジオのヴァイブなんてでたらめだと思っていた」と言っているぐらいだから、最初は半信半疑だったらしい。もしかしたら、FAMEスタジオでレコーディングするというアイディアは、『Careless Soul』のプロデューサー、マイケル・リンネのアイディアだったのかもしれない。

「スタジオがサウンドに影響を与えるなんてありえない!」
そう思いながらもリンネとともにバンド・メンバーをひきつれ、FAMEスタジオに赴き、5日間にわたってレコーディング・セッションを繰り広げたところ、それは名門スタジオが持つヴァイブを感じながら音楽を奏でるという素晴らしい経験になった。

「そこには本当にヴァイブと言える空気があって、誰もがそれを感じながら演奏したんだ」
もちろん、FAMEブランドという効果も少なからずあったと思うが、『Careless Soul』はタイソンの存在が、より多くの人に知られるきっかけになった。 

 

Careless Soul / Cale Tyson (At Last)

 

 

じゃあ、そんなタイソンに先駆け、ニュージャージーからアラバマくんだりまで出かけていって、FAMEスタジオで3作目のアルバム『Thousand Mile Night』をレコーディングしたジョナー・トルチンは、なぜ?

 

Thousand Mile Night / Jonah Tolchin (Yep Roc)

 

 

現代のスワンプ・ロックの担い手と目されるトルチンのことだから、「FAMEスタジオでレコーディングするのが夢だった」というアンダーソン・イースト同様、長年の夢を実現させたということかもしれないが、一番の理由は、同スタジオのエンジニア、ザ・ブラン・ウィザードことジョン・ギフォード3世の存在だったという。

トルチンがプロデューサーとして参加したマサチューセッツ州サマーヴィルのシンガー・ソングライター、ジュリー・ローズの1stアルバム『Bound To Meet The Devil』の追加レコーディングをFAMEスタジオで行ったとき、トルチンとギフォードはお互いに尊敬しあえる関係を作ることができた。

  

Bound To Meet The Devil / Julie Rhodes (Dirt Floor)

  

 

前作『Clover Lane』をナッシュビルのスタジオで、多くのゲスト・ミュージシャンとレコーディングしたトルチンとプロデューサー、マーヴィン・エツィオーニは、『Thousand Mile Night』ではタイトなバンド・サウンドを求め、決まった顔ぶれのミュージシャンとレコーディングしたいと考えたそうだが、バンドの演奏を、バンドが放つ熱気や臨場感とともにとらえるなら、「ギフォードしかいない」となったのだろう。

因みにプロデューサーとして、FAMEスタジオで何度もレコーディングを経験しているテキサス・ジェントルメンのリーダー、ボー・ベッドフォードは、FAMEスタジオについて、こんなふうに言っている。
「ライヴ・レコーディングするために作られたスタジオなんだ」

結果、『Thousand Mile Night』は、前作以上にアメリカのルーツ・ミュージックの深いところにアプローチしたという言葉とともに歓迎され、トルチンの評判はさらに高まった。因みにトルチンはその後も、ケヴィン・クリフォード(Dr)と組んだデュオ、ダーマソウルによるブルース~R&B色が濃い1stアルバム『Lightning Kid』のバッキング・ヴォーカルのレコーディングを、FAMEスタジオでジョン・ギフォード3世とともに行っている。

 

 

Lightning Kid  / Dharmasoul (Self-Released)

 

そして、『Thousand Mile Night』のリリースから約3年。トルチンが待望の4thアルバム『Fires For The Cold』を完成させた。

リリースは9月13日と、まだちょっと 先だが、デビューした時からのつきあいだったプロデューサーのマーヴィン・エツィオーニをはじめ、『Thousand Mile Night』からプロダクションを一新。ベン・ハーパーとチャーリー・マッセルワホワイトの『Get Up!』でグラミーを受賞したシェルドン・ゴンバーグのプロデュースの下、コネチカット州スタンフォードにあるキャリエイジ・ホーム・スタジオでレコーディング。ジェイ・ベルローズ(Dr)、フレッド・タケット(Gt)、グレッグ・リーズ(Gt)ら、ベテラン・ミュージシャンたちに加え、ゲストにジャクソン・ブラウン、リッキー・リー・ジョーンズ、サラ・ワトキンスを迎えたレコーディングは、プロダクションのスケールアップを物語っているが、それがどんなふうにトルチンが作る曲の数々に反映されているかが楽しみだ。

 

Fires For The Cold / Jonah Tolchin (Yep Roc)

 

 

 

 

 

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3年ぶりの新作『Undress』がTHE FELICE BROTHERSの決定打になった理由

Thefelicebros

 

サイモン・フェリースが抜けてから、バンドにハマるドラマーがずっと見つからないまま、今度はバンドが注目される以前から長年、活動を共にしてきたベースのジョッシュ・“クリマス・クラプトン”・ローソンとライヴではフィドルに加え、ラップも披露するグレッグ・ファーリーが抜けてしまうなんて――。 

3年ぶりのリリースだから心待ちにしていたとは言え、イアン(Vo, Gt)とジェームズ(Key)のフェリース兄弟が新メンバーと作った『Undress』を聴くのは、正直、ちょっと怖かった。

ジェームズがアメリカのローリング・ストーンに語ったところによると、コナー・オバーストの『Salutations』のツアーでバック・バンドを務めながら、イアンとジェームズは、このバンドでできることはもうないんじゃないかと感じていたという。それじゃあ、ジョシュとグレッグがバンドを離れてもしかたない。

フェリース・ブラザーズ加入以前からソロ・アーティストとして活動していたグレッグは、改めて自分のキャリアを追求しはじめ、18年10月、フェリース・ブラザーズよりも一足先にソロ・アルバム『Taker Easy』をリリース。その『Taker Easy』のレコーディングに参加していたジョシュもミュージシャンとして、そしてフェリース・ブラザーズ時代にバンドのMVを手掛けていた延長で映像の世界にも可能性を見出し始めた

一方、イアンとジェームズは18年に入ってからイアンが作り始めた新曲に何か感じるものがあったのか、新メンバーにウィル・ローレンス(Dr)とジェスキー・ヒューム(Ba)を迎え、『Undress』をレコーディング。その中でイアンとジェームズはメンバーが変わったことに対する筆者の心配とは裏腹にフェリース・ブラザーズとして音楽を演奏することが、また楽しいと思えるようになったという。

それはやはりメンバーの顔ぶれが変わったことで、新たなサウンドを作り出せたことが大きかったんじゃないか。

もちろん、フェリース・ブラザーズ印のフォーク・ロック・サウンドが劇的に変わったわけではない。しかし、タイトな演奏からは、これまでとは明らかに違うグルーヴが感じられる。また、新たなサウンドの印象に直接つながるホーンやペダル・スティールの音色を加えることができたのは、楽器が1つ減ったからではなかったか。

ただでさえむさくるしい男所帯に紅一点が加わった効果は早速、タイトなビートが小気味いいロックンロール・ナンバー「Salvation Army Girl」にジェスキーが加えたハーモニーに表われた。

ひょっとしたら、これまでリリースしてきたアルバムの中で、一番ポップでキャッチーかもしれない。

キャッチーと言えば、イアンが書いた歌詞もテーマを、現代のアメリカの社会に絞った分、ずいぶんとわかりやすくなった。

一握りの資本家たちが牛耳る社会が抱えるさまざまな問題を、『Undress』というタイトルどおり暴き出しながら、アルバムを締めくくる「Socrates」では、そんな歌を書いた罪で、奴らは俺を訴え、死刑を宣告したと歌っているんだから皮肉が効いている。

地獄行きは決定。『Undress』を聴いたら、火あぶりにされる殺人者たちと異教徒たちは踊り狂うに違いない――。

そう歌いながら、しかし、イアンは腹を立てているわけでも憤りを感じているわけでもないようだ。

暴君の首を取ったところで、奴らは代わりを見つけるだけだ。流血沙汰はもうたくさん。友よ、復讐を企てようとするんじゃない――。

かつて物騒なマーダー・ソングを歌っていた彼が、なんだか達観しているようなところがおもしろい。

結成から13年。活動を共にしてきた仲間たちがそれぞれの人生を歩み始めたタイミングで、フェリース・ブラザーズもまた、新たな一歩を踏み出したようだ。

そんなところも含め、『Undress』は、ようやく出たフェリース・ブラザーズの決定打と言える1枚なのだ。

 

 

Undress

Undress (Yep Roc)

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SXSW 2019 レポート 音楽の坩堝と化した町に一週間「非現実的な景色の中の非日常」

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今や<SXSW>の花形と言えるほどの盛り上がりを見せているIT関連のインタラクティヴや、今年2019年もケビン・コスナー、ウディ・ハレルソン、マシュー・マコノヒー、オリヴィア・ワイルドら、人気俳優がレッドカーペットを賑わせたフィルムフェスティバルに比べると、ミュージックフェスティバルは[つづき]

 

 

 

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«ブルックリンのインディ・フォーク4人組、BIG THIEFが名門4ADに移籍。バンドの内なる宇宙に迫る新作『U.F.O.F.』をリリース